2010年11月10日水曜日

「敵」の審査 続報

先日、スウェーデンの「敵」による博士論文の審査の話をしたが、その続報。
Mon mari が先週、審査のためにストックホルムに行ってきたので、そのときの話。

スウェーデン(スカンジナビア方式)は審査においてOpponent (対抗者、敵)という人を設ける。
審査官(Examiner)とは言わない。

Mon mari が事前にもらった論文はすでに出版されているものだった。
えー、まず論文審査を受けて、修正を入れてから出版じゃないの?と聞いたら、スウェーデンでは通常、博士論文は審査前に出版されるそうだ。

で、そのすでに出版されてしまった論文をMon mari が見たところ、彼はかなりの修正が必要と判断した。そのことを、学生の指導教官や学内の審査委員に言ったら、すごい抵抗にあったそうだ。
英国だと、学外審査官は結構批判的にコメントを出す人も多く、修正や追加をどんどん指示してくる。
でもスウェーデンでのOpponentは、「こうすべき、こうしなければならない、そうでないと論文は通らない」という風には進められないそうである。基本的に審査にあげられる論文は「合格」することが前提なので、Opponentは「こういう風にすると尚、良い論文になるだろう」という柔らかい表現でコメント出しをする程度だそうだ。
ということは、昔のようにコテンパンにやっつける審査ではないということだ。
なんか、とても不思議なシステム。

で、その審査の日の様子。
まず、博士論文の審査は大学の中のビック・イベントらしく、審査会場の建物には、博士論文審査を示す「旗」が挙げられていた。
審査には、およそ60名くらいの聴衆者が来ていた。ひぇ~、60名?こんな多くの聴衆にさらされるとはさぞ緊張するだろうな・・・
その中に、Bishop(司祭)まで来ていたとか。審査を受ける学生が通っているカトリック教会の司祭らしいが、教会あげての応援でもあったようだ。すごい張り切りよう。

Oppnent方式では学生は発表はしない。最初の20-30分でOpponentであるMon mari がプレゼンをした。論文の内容を説明し、その強み、弱みなどをコメントする。その後、学生への質問が続く・・・ちなみにBishopも何か質問していたそうだ。

英語圏の国では、論文の審査をする場合、審査官は大学側から事前に必ず、審査の基準リストが与えられる。いくつかの項目があり、審査官はそれに沿って、論文を読む。例えば、「文献レビューはきちんと網羅されて、議論の要点を押さえているか」、「分析的枠組みは論理的か」、「論文は既存の知識に新しい視点を加え、オリジナリティがあるか」などなど、細かい項目が設定されている。しかし、スウェーデンではそういう判断基準リストというのがないらしい。なので、読む側の恣意的な判断やバイアスがかかる評価がなされる危険性がある。

また、Opponentは審査の結果である合否は決められないそうだ。英語圏では審査官が合否を決めるのだが、スウェーデンではOpponentはあくまでもDefenseの議論に関わる役割のみで、合否は学内の審査委員会が決めるそうだ。実は、審査の前にMon mari は、この論文のストレート合格には賛成せず、大幅な修正をもって再提出とコメントしたそうだが、大学はそれは受け入れず、結局、Defenseの後、審査会は合格と決定し、特に修正も求めなかったそうだ。まあ、すでに出版されている論文なので、この場に及んで直しようがないが・・・

ヨーロッパ諸国は高等教育システムを基準化するために、99年に「ボローニャ宣言」というのを採択したが、それは学部、修士までの統一で、博士までは含まれていないようだ。なので、博士号取得のプロセスや判断基準は各国のシステムに任されている。
そういう意味で、ヨーロッパでは博士号の質の統一や強化が今後の課題かもしれない。

Opponent方式を色々と調べていたら、スウェーデンの博士審査を視聴したオーストラリア人のブログを見つけた。彼もこの方式がかなりオーストラリアと違いちょっと時代遅れではあるが、違うシステムを見れたのは興味深かったとコメントしている。

2 件のコメント:

サヨクマ さんのコメント...

こんばんは、お久しぶりです!

スウェーデンの論文審査、予想を裏切られましたね~。審査前に出版してしまうというのもスゴイし、市民にオープンだというのも驚きです(教会を挙げての応援とは!!)

かくいう私は、博士の入口に立つための準備を再開しようと思ってます。今日は駒場で博士を取得した友人から話を聞いてきました。色々聞くとめげそうですけど…

それでは、お体大事にしてくださいね!
来年1月(11月は大統領選のため延期)中旬頃にパリを経由する予定なので、葛湯を持っていきま~す。

フェリン猫姫 さんのコメント...

確かに審査の前に出版というのは本当に驚きです。博士論文が学内でOKになればそれで出版される、Opponentはその出版された書物に対するコメントや質問をする、というだけで、まあ、ある意味出版のお披露目の場所なのかもしれません。基本的には合格が不合格しかなく、その中間(修正して再提出)というのは存在しないのだそうです。出版した後で不合格というのは普通ありえませんよね。

1月、お会いできるの楽しみにしています。博士の準備も順調に進むようお祈りしています。