2010年6月10日木曜日

博士論文はまず否定から?

博士論文を書くと必ず審査がある。
学士論文や修士論文は学部内の先生が採点して成績を出すだけだが、博士論文は審査とか、口頭試問というプロセスがあり、それで合否が決まる。

口頭試問は英語ではDefence、または英国ではViva(ヴァイヴァ or ビーヴァ)と言う。国によってその審査方法は若干違う。

日本や米国は学内に審査委員会を設けて、指導教官と学部内外の先生たち数人でチームを組み、審査をする。学生はこの委員会チームの先生たちから口頭試問を受ける。

英国は学内、学外から審査官を1名ずつ、計2名を選ぶことになっており、日米のような審査委員会というのは存在しない。

口頭試問は、大体学生が15分から20分、自分の論文に書かれた議論を発表し、その後、審査官と質疑応答となるが、実質的にはディスカッションの場になることがほとんどである。

オーストラリアの場合は、学外の審査官2名を選定するが、口頭試問というのは通常行われないそうだ。よっぽど論文の質が合否のボーダーだったり、相当難解な内容だと、審査官が直接本人に会って試問することもあるそうだ。

で、何を言いたいかというと、昨日スウェーデンの口頭試問について初めて知りちょっと驚いた。
スウェーデンでは、Faculty Opponents と言われる人を選出する。いわゆる審査官なのだが、英語で言うExaminer(審査官)ではなくOpponent (対抗者)と呼ばれるそうだ。口頭試問の段取りは、まずOpponentが論文を読んだあとの感想として15分のプレゼンをする。学生自身でなく、審査をするOpponentが発表をするというのは意外だ。その後1時間45分かけて、学生に対して質疑応答・議論を行う。基本的に口頭試問は、「ディベートの場」と設定され、学生が「肯定側(Affirmative)」、Opponentが「否定側(Negative)」となり、それぞれの主張、質問、反論を繰り返す。まあ、極端に言うなら、Opponentは「君の論文なんてゴミ同然だ!」と吹っ掛けるところから始まる。それに対して、学生は必死に根拠や証拠を出して、自分の論理はこんなに正当性があるので、ゴミでなくダイアモンドのように価値があるものだと主張し防衛しようとする。ちなみに審査は原則、公開で行われるそうだ。

論文で自分の主張を防衛するという意味では、どこの国も基本的に同じだが、スェーデンの方式は、従来というか古来のやり方に近いらしい。特に北欧諸国はまだOpponent方式を採用しているそうだ。昔は博士号を取るなんていう人は一国の中でもほんのひと握りだったので、審査は今よりもパブリックに公開されて、劇場のような場所で学生は多くの聴衆にさらされ、複数のOpponentにボロクソ叩かれ、攻撃されたらしい。そのプロセスを経て、晴れて学位が授与されたのである。

近年は博士号の量産が進み、多くの国の大学では審査は非公開になり、親切な身内の審査官に守られ、それほど叩かれもせず、昔よりはずっとイージーに学位が取れるようになっているそうだ。要は審査で不合格になるレベルのものは、審査にのせないという仕組みができているのだ。

このように国によって高等教育のシステムの違いがあるので、ヨーロッパ諸国内では高等教育の質の確保や標準化、統一化を図るための動きが進んでいるらしい。

実はスウェーデンの某大学からMon mari に論文審査のOpponentになってくれないか、と打診が来ているのだ。彼はExaminer の経験はあるが、Opponentの経験はないので興味を持っているようだが、何分、審査する自分が発表をしなければならないのでその準備が面倒らしく受けるか否か、今悩んでいる最中である。議論を吹っかける側もそれなりに攻防策を練らなければならないのである。

2 件のコメント:

サヨクマ さんのコメント...

こんにちは!

スウェーデン(北欧)方式、恐ろしいですね~(と逃げ腰)。

と博士の入り口にも立たないうちから、戦々恐々としています。まずは研究計画書を仕上げないと・・・と思いつつ、別の仕事に追われて一杯一杯です。

opponentの話、楽しみにしています。

フェリン猫姫 さんのコメント...

そうですね、夫もかなり厳しいそうだと言ってました。それに比べ、英米は随分甘い査定プロセスとのこと。私は甘い環境でよかったと思いますが、こうやってトコロテン式で博士を取った人が世界中に増えると、博士の価値も昔から比べて半減しますね。
とは言え、私にとっては博士の生活は厳しいものだったので、それだけでも貴重な経験でした。
Opponent方式は夫が受ければまたお伝えしますね。