2010年5月28日金曜日

危険なドナー・ダーリン

今読んでいる「War Games (戦争ゲーム)」という本。
英国の各主要紙で高い書評を得ていたので早速アマゾンで買って、吸い込まれるように読んでいる。
著者のLinda Polmanはオランダのジャーナリスト。特に、緊急支援、人道支援に集中して取材を続けている。シエラレオネ、コンゴ民主共和国、ルワンダから、イラク、アフガニスタンにまでわたって、人道支援の問題点を鋭く描いている。

一言で要約すると、人道援助という名のもとで、援助のお金が紛争の原因である独裁者の繁栄を守り、助長していると彼女は主張している。これは単なる上層部の汚職や不正とは異なり、ある意味、「不必要善(行った善よりもより大きな悪を生み出す)」のスパイラル、という感覚かもしれない。

たとえば・・・
ユニセフは子どものワクチンを接種するために、ある国で反政府リーダーに税金を納めて、独裁者や暴君の懐を潤わせているという(納めなければ活動できないというジレンマが横たわる)。

90年代半ばに起こったルワンダ虐殺の後に大量発生した難民。コンゴ民主共和国に流れた難民は犠牲になったツチ族だけでなく、その多くは虐殺を企てたフツ族のリーダー、反政府ゲリラ、過激派だった。有名なゴマキャンプで発生したコレラの流行では5万人もの難民が死亡したと報道されて、世界中から相当の義援金が集まり、支援ドナーは一日100万ドル(1億円)あまりを消費しなければならないほどに至った。しかし実際には、コレラで死亡したと言われた中にフツ族リーダーに反抗して虐殺された者も多数おり、真実が報道されなかったとPolmanは主張している。また難民と言ってもフツ族難民はルワンダを脱出した時に大量の物資や家畜を持って来て、さらにキャンプから抜け出してルワンダに戻り、物資を再供給して、キャンプで豊かになっている者も大勢いたそうだ。
要はこのような実態が正確に報道されずに「虐殺で発生した難民がコレラで大量死」という一言でくくられアピールされると、視聴者の同情心を掻き立て、多額の援助金が集まり、多くのドナーが支援に入る「ドナー・ダーリン」現象を生み、結果的にキャンプの独裁者たちの利益につながったといるとしている。

シオラレオネでは10年前に起こった内戦で多くの市民が負傷し、手足を失った。ところが、特に子どもの手足の切断が多く、それは反体制派によって意図的に引き起こされたとしている。そのような多くの子どもたちは、ドナーが供与した義足や義肢が山積みになっている小屋に、戦争ゲリラによって閉じ込められているそうだ。ゲリラのリーダーは「この手足がなくなった子どもたちがいなければ、あんたたちドナーは俺たちのところに来ないだろう!」とPolmanに語ったそうだ。つまり、紛争を起こし犠牲者を出すことでドナーを呼び入れて、その援助のお金を自分たちに還流するような仕組みにしているとしている。

アフガニスタンでも、世界銀行は援助のお金の35-40%は不正流用され、結果的にタリバンの懐に入ってると認めている。

人道援助が独裁者や反逆者の利益につながって、さらなる紛争や災害を起こしていくのなら、援助はきわめて危険な道具にもなりえるということになるのだろう。極論の話とも捉えられるかもしれないが、問題提起としては価値のある視点だと思う。

まだ本書を完読していないが、ルポルタージュ調でとても読みやすく書かれているので、援助に関わっていてご興味のある方にはお薦めの一冊である。

2010年5月23日日曜日

保育事情その2

パリの街を歩いていると本当に子どもが多いのに驚く。夕方の公園は子どもと母親やシッターたちで満杯。出生率がなかなか上がらない日本の光景とはまったく対照的だ。以前、フランスの保育事情について簡単に触れたが、今回はその第二弾。

先日、友人のトモミさんのお宅にお邪魔してヘアカットをしていただいた。帰りにトモミさんの娘さんのナオミちゃん(2歳)が通っている託児所に一緒にお迎えに行った。

フランスでも日本と同様に幼稚園の他に、保育園、託児所がある。フルタイムで働いている母親のための施設と、フルタイムでない勤務をしている母親や、仕事はしていないが他にも子どもがいて養育が大変な母親を支援するための施設がある。トモミさんは時々仕事をする傍ら、週9時間、ナオミちゃんを託児所に預けている。保育料は世帯の収入によって1時間単位で算定されているそうだ。

この日も私のヘアカットのために、午後2時から5時までナオミちゃんはここにきていた。
小さな託児所だが、5人の子どもに対して保母さんが1人いて、施設も明るく清潔な所だった。フランスでは日本のように集団遊戯などはせず、個人主義のお国柄か、子どもは勝手にあちこちで好きなように遊んでいるのが特徴だそうだ。

ナオミちゃんは週9時間のひとときをとても楽しみにしているそうで、お友達とも仲良く遊んでいた。ナオミちゃんはお母さんと日本語で話すので、フランス語はまだ苦手なようだが、子ども同士は言葉の壁はなくみんな自然に交じり合っているので、言葉のコンプレックスのある私はとても羨ましかった。

先生はナオミちゃんの話す日本語をきちんと覚えていて、そのたびにトモミさんに聞くのだそうだ。
例えば「"マッテ"という言葉はどういうこと?」と先生が聞いてくるそうだ。トモミさんは「Attendre (待つ)という意味なの」というと、「ああ、そうだったのね・・・」と。そういうやりとりが続いていて先生の方が日本語を覚えて対応してくれるそうだ。

このように色々な条件下で働いて育児をしている母親に対して地域で柔軟に対応しているのがフランスの保育システムである。日本もこれくらいの余裕と柔軟性をもてば、出生率や継続して働く母親が増えていくのになぁ、と帰りのメトロの中でつくづく考えた。


最後に保育とは関係ないのですが、爆笑写真を一つ。

トモミさんがヘアメイクをしたモデルさんが写真撮影に入ろうとしたら、いきなり特別出演で参加してしまったナオミちゃん。モデルさんも「ウァオー!!」と叫びのポーズをしている。

お菓子を手にして「わたしもモデルよ!」と言わんばかりの堂々としたナオミちゃん、あなたは将来、絶対に大物になるでしょう!

しかしモデルさんって、本当に綺麗だなぁ・・・

2010年5月19日水曜日

UK Ambassador's Residence in Paris

またMon mari の付き合いで昨日は、在仏英国大使の公邸で開かれたシャンパン・レセプションに行ってきた。
大使の公邸というのは、仕事で途上国へ出張に行ったときに、日本大使館の大使のお宅でディナーをご馳走になったことはあるが、外国の大使、それも先進国というのは初めての経験だった。

「これは一生のうち最初で最後の経験だよ」とMon mari に言われたので、また洋服選びに苦労しつつも、ピチピチの状態でワンピを着て、ミーハー根性全開で出かけた。

大使(写真右側の方)はSir Peter Westmacottといい、ナイト爵位を持っているそうだ。大使のスピーチのあと、中庭で皆さんと歓談。シャンパンとおつまみは激ウマで、意地きたなくこれぞとばかりに一杯飲んで食べてしまった。こういう時にお育ちがわかってしまうのよね・・・


この公邸の建物は16世紀初頭に建てられ、1814年にジョージ三世に代行してウェリントン公爵が購入、家具を揃え、当時の帝国的な装飾を施した後に、世界で最初の英国大使館になった。
だが、フランス革命の騒乱期になると空き家になり、ナポレオンの妹に売られたそうだ。
その後、ナポレオンのお墓をデザインしたフランス人が絵画ギャラリー室を晩餐ルームに変え、それに伴い、ビクトリア女王が訪問されたそうだ。写真の奥にある椅子は、女王謁見のために使われたものだ。このように公邸と言っても、様々な歴史が深く刻まれている建物なのである。

第二次大戦中、ドイツ占領下のパリでは、館は米国とスイスの保護下になった。その後、再び英国が買い戻し、大使館は別の建物に移し、この館は大使と家族専用になっているそうだ。大使のお子さんはすでに成人しているので奥さまと二人暮らしだそうだ。しかし、こんなだだっ広い館に使用人と夫婦2人のみで住むのも寂しいかったり不便なこととかないのかしら。まあ、庶民とは違う感覚だろうから、そんなこと心配無用か・・・。

お手洗いもレトロ調で懐かしい雰囲気が漂っていた。
なぜか、私にはここが一番くつろげてほっとできる空間だった。
やっぱり庶民にとって公邸とは別世界な場所であるのは確かだ。
ま、あまり難しいこと考えずに、社会科見学の一つと考えればいいのかな・・・?

2010年5月17日月曜日

笑えない芸猫

話題のニュースからひとつ。ビニールキャップをかぶって、お風呂に大人しくつかる猫がネットで人気の的になっているらしい。
まあ、可愛いといえば可愛いが、その一方で、ビニールも一つ間違えば窒息するし、お風呂も浴槽で滑っておぼれてしまうかもしれない。

人間にそのようにおもしろおかしく躾られた猫なのだろうが、やっぱりこういうのは虐待に近い、強制調教されたかわいそうな動物の部類に入るのだと思う。

猫はそもそも砂漠の動物なので、水は大嫌いなはずである。この猫も半分は恐怖心に怯えている顔をしている。
猫好きの私はこういうのはどうも好きになれない。

2010年5月15日土曜日

憂鬱なおでかけ

昨日はMon mari の誕生日だったが、ちょうど彼が関係する学会の会議がパリ市内で行われたのでお祝いはお預けになった。
実は今まで彼のプレゼンを一度も聞いたことがなかった。彼からは「そんなに聞きたくないのか?」と言われ続けてていた。別に聞きたくないわけじゃないけれど、違う分野だし、他の奥さまのように夫の国際会議にいちいち一緒にくっついて行くのはどうも私の性分ではないので避けていた。しかし最近彼がかなりイジケ始めていたので、今回はパリでの開催ということもあり応援方々お供することにした。

この会議はロンドンにある「Institute of Civil Engineer 」によって開催された。欧州と北米の土木工学のエンジニアが集まって、自分たちの専門技術を披露するのだ。原子力発電、核融合技術、TGV(フランスの新幹線)、橋、などなど。。。 私の専門とは違う領域の話は詳しくは理解できないのだが聞いていておもしろかった。驚いたことに、これらのエンジニアは日本の土木工学にもすごい精通しているのだ。たとえば、新幹線のシステムやすべての路線をきちんと説明できるし、青函トンネルや明石海峡の話などをしてくれるのだ。私はへぇ~、知らなかった、と関心しながら聞いていた。土木工学というのは一国だけの技術や知識に留まることなく、新たな技術が開拓されると国境を越えて瞬く間に他の国にも移転するというのを目のあたりにした。一番おもしろかったのは橋の話。南仏にある、世界一の高さを誇る橋について紹介し、橋に人生をかけているフランス人のエンジニアの話はすばらしかった。
一方、Mon mari の話はちょっとレベルが違った。国連ミレニアム開発目標(MDGs)の達成のために途上国に必要な技術やエンジニアをどう普及するか、そしてエンジニアを学ぶ学生が世界的に減少していることからいかにエンジニアを興味深く、おもしろく教え、若者を惹きつけるかが重要な課題であるということだった。なるほど、これは私にもとてもよく理解できた。

そして海外の会議に出ていつも関心するのは、話し手はユーモアをたっぷり含めて、聞き手を笑わせること。日本人だと、ほとんどの人はまじめに英語の原稿を棒読みするだけで、ユーモアやジョークを即興で話すなんていうのは限りなく苦手な芸である。もし日本人がジョークを言っても理解されなかったり、あまり笑いを誘えないことが多い。語学力だけでなく、ユーモアのセンスというのは小さい時から養われた五感の一つのように思える。

会議終了後は、シャンパン・レセプション、そしてディナー。実は今回、これが一番嫌だった。プレゼンは出てもいいけど、ディナーだけは勘弁してほしいとMon mari に懇願したが、私の名前をもう登録したので絶対にダメといわれ、しぶしぶ出た。出たくない理由は・・・着ていく服がないこと。最近の体重増加で、今まで着られたスーツやワンピが全然フィットしないのである。洋服ダンスから服を全部出して、やっと入った1着でディナーテーブルに座る私。あまり機嫌のいい顔でないのは、他の参加者の奥さま方は皆、素敵なフォーマルドレスをお召しになられているのに、私はかなり見劣りがしてしまったからだ。だから嫌だといったのに・・・・

そしてもう一つ嫌だったのが、ダイエット中なのに、リッチなフレンチをフルコースで食べなければならないこと。この瞬間でリバウンドすること確実なのが目に見えてたからである。

でもさすが、パリのホテルのフルコースは絶品だった。イギリスのホテルの結婚式のフルコースより4倍も5倍も見た目も味もすばらしかった。

前菜は黒い石板の上に盛られたサーモン。サワークリームをとスモークサーモンを巻いて、上下にカレーの風味がするペイストリーではさんでいる。発想、見栄え、味とも最高だった。


メインは羊のモモ肉。やわらかくておいしかったが、この瞬間で、「ああ・・・ダイエット生活は終わった」と思った。

チーズ3種のあとのデザートは、巨大マカロンの下にイチゴとチョコレート、そしてアングレーズ・ソースをエレガントに敷いている。もうこの段階では胸焼けがしてきて、大好きなマカロンは半分しか食べられなかった。

多分、このフルコース・ディナーで2000キロカロリー以上は摂取しちゃったな。
明日からまた一汁一菜の生活を再スタートしないといけない・・・

2010年5月13日木曜日

政治風刺

英国のガーディアン紙にSteve Bell という政治風刺を描く有名な4コマ漫画家がいる。
この人は、政治家の容姿の特徴や、時宜を得た滑稽な言動を的確に描写しているので私は大好きだ。歴代の首相や大統領、特にブレア、ブラウン首相、ブッシュ大統領など本当に笑える姿をしており話題も次から次と豊富に描かれていた。時々、エリザベス女王まで登場なさる。

英国の総選挙で保守党と自民党の連立政権が樹立され、キャメロン首相とクレッグ副首相が誕生した。
Steve Bell は選挙中からこの二人にスポットあてて頻繁に彼らを描いてきた。
特にキャメロン首相の姿は抱腹絶笑する。

キャメロン首相は43歳だが、なぜか顔がとてもツルツルしていてほとんどシワがない、というか目立たない(一説にはボトックスを使用しているとまで言われている)。漫画家はこのような特徴の顔はとても描きづらいのだそうだ。

あまりに張りとつやがある顔なので、それを強調するためか、キャメロンは赤ら顔で頭にコンドームをかぶされてしまっている。なぜコンドームなのかはSteve Bell にしか理由はわからないので、読者がそのわけを個々人で想像するしかないのである。ネットでも何故コンドームをつけているか多いに話題になっているが、ベストアンサーに「キャメロンの頭が男性器の形に似ているから」というのが選ばれているのには私も苦笑してしまった。

日本では政治家や皇室関係の人たちをこのような風刺漫画でからかい描くことなんて絶対にありえない。もし鳩山首相がコンドームを被っている漫画が朝日新聞などに毎日連載されたら、新聞社は恐ろしい政治圧力に遭い、社長以下、責任者が辞職に追い込まれるだろう。

英国では政治や社会の頂点に立つ人でもひやかしの対象になり、このような悪意のないジョークは広く受け入れられている。描かれている本人も特になにも反応はしない。それが社会に根付いたGSOH (Great Sense Of Humor)だからなのだろう。このようなおもしろおかしな風刺漫画が政治への関心や興味を高めることもあるし、また政治への強いメッセージにもなるのだと思う。

今後数年間、コンドームをつけたキャメロン首相が登場するSteve Bell の漫画を見るのは楽しみだが、一方で本物の彼をテレビで見るたびに、漫画の姿と重なって笑いが止まらなくなる自分の姿が容易に想像できる。

2010年5月12日水曜日

この頃の努力


論文書きの生活は机に向かう時間が長く、運動もせず間食ばかりして、昼夜逆転の日々になってしまった。結果的に去年の秋から体重が4-5キロ増えて、胃腸障害も頻繁に起きた。

ということで、今はエクササイズの毎日。
アパートのベランダにある「ローイング・マシン(ボート漕ぎマシン)」で筋トレを行っている。
そして雨が降らなければ、毎日5キロ以上のウォーキングをしながら、パリ散策を楽しむ。夜はヨガ、整体体操などに勤しむ。

さらに食事はなるべく蒸し料理にし、脂を落とす調理法でカロリーを減らす努力をして、甘いものは1日1回と決めた(これが一番辛いけど)。

昨晩は 手をかけて蒸しロールチキンを作った。蒸すと肉汁、脂が落ちるのでカロリーが減るそうである。
これから夏まではこのようなダイエット生活が続く。
勉強という理由で体作りを怠けてきた代償はあまりにも大きい・・・

2010年5月2日日曜日

万国旗から鯉のぼりへ

毎日のウォーキングは、パリの街を通してフランスの文化とか歴史を学ぶ目的にしているものの、実際には、あちこちでぶつかるおもしろい光景や出来事の方に目が行ってしまう。

たとえば、今、国連教育科学文化機関(ユネスコ)のビルには、鯉のぼりがあげられている。ここには通常、万国旗が飾られている。ユネスコの加盟国は190カ国以上あるが、今は190匹もの鯉が泳いでいる。こんな大量な鯉を日本でも見たことがない。この案は松浦前事務局長の勅命だったのだろうか。文化をこよなく愛する人で有名だったが、それにしても加盟国の全国旗が鯉のぼりになるとはおそれいった・・・ 
でもほとんどのユネスコ職員はこの鯉が何を意味しているのか知らないだろう。Mon mari も当然知らなかったので、説明してあげた。

そしてエッフェル塔の前のシャン・ド・マルス公園まで歩いていくと、群集が見えてその中に6-7組の花嫁、花婿がいた。え~、統一教会の合同結婚式かしら?と近づいてみると、どうも中国人街のグループで、今日が中国の吉日なのか、たまたまこのカップルたちが一緒に結婚式の写真を撮りにエッフェル塔まで来たらしい。リムジンのストレッチカーが3-4台横付けされて、ヌーボーリッチそのもの。とにかく中国人パワーはパリでもすごいと思った。

さらに河沿いに進んでいくと、ロシアナンバーのベンツがあったり(何でロシアの車がここに来れるのか、摩訶不思議、きわめて怪しい!)、サッカーのフーリガン集団に遭遇して、その傍らで警官が誘涙銃を持って立っていたり、とにかく、パリの散歩はおもしろい出来事があちこちで見られることが醍醐味である。