2010年10月20日水曜日

必要悪?不必要善?

最近、欧州で話題を呼んでいる米国のProject PreventionというNGOの話。
このNGOは、薬物中毒になっている男女に不妊手術を提供している。

最近、活動を米国内だけでなく、ロンドンにも拡大してきており、英国内でも盛んに論議され、活動は非難を浴びている。CNNBBCでも連日大々的に報道された。

具体的にどういう活動かと言うと、薬物中毒になっている若い男女(圧倒的に女性が多いが)に300ドル(英国では200ポンド)を与える代わりに不妊手術や中絶を受けさせるのだ。主な理由は、薬物中毒の母親が妊娠しても育てられない、妊娠中に薬物摂取をすることで、生まれた子どもの健康が成長期に深刻な影響を受けるためとされている。

NGO代表のBarbara Harris さんという人は、自身が薬物中毒の母から産まれた子ども4人を養子として育てており、その子どもたちが健康面で様々な問題を抱えていることから、子どもを産まないための支援としてNGOを立ち上げた。すでに米国で3000人以上に支援してきた実績を評価して、さらに英国にも活動を広げている。活動資金は匿名の篤志家などから受けているらしい。

当然ながら、活動へのサポートより非難の声の方が多い。
まるで戦前のナチのようだ、NGOが不妊手術を奨励するなんてとんでもない、300ドルのお金をあげても結局、ドラッグに使うだけだ、薬物集毒患者は更正できないという前提でいるのはおかしい、若い女性は今はいらないと思っても、将来、更正した後で子どもが欲しいと思ってもそのときは遅い、社会的弱者に対する冒涜だ、などなど。

一つ一つが最もな意見であるが、彼女の言い分は薬物中毒患者の更正は言われているほど簡単でない。親が心身ともに病んでいる中で、健康な子を産み、適切な環境で養育できるわけがない、それならう産ませない環境を作るのが望ましいというわけだ。

この話は薬物中毒患者を対象としているが、他の社会的弱者、例えば身体に障害を持っている人や精神の問題を抱えている人たちに対してはどうなるのだろうか。そういう人たちは養育できないからと言って、他人が子どもを作るな、と言うことができるのだろうか。薬物中毒患者だけで語れない、もっと根幹的な問題をはらんでいる気がする。

お金をあげる、といっても300ドル程度でその人は何ができるのか?薬物から抜け、自立できるような金額ではない。結局、これは買収行為(人を金で釣って支配すること)に当たるのではないか?そもそも、こういう問題は倫理とか感情論で議論するのでなく、まず法的にどう解釈されるのか、というところから考える必要があるような気もする。

必要悪というのか、不必要善というのか、複雑な問題である。

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