2011年5月28日土曜日

苦渋の選択

またレスターのファームハウスに滞在中。
以前にマービンンさんの話をした。彼は広大な牧草地を所有している農民。
上の写真は彼のB&Bの部屋からのぞいたお庭。
トラックの手前がマービンの敷地で、向こう側が隣との境界になっている、いや、なっていた。
隣の農家のおばあちゃんが最近亡くなった。若い世代で農業を継ぐ人がいないので、広大な牧草地は売りに出された。
マービンは悩んだあげく、この敷地を大枚はたいて買い上げた。
これ以上、牧畜や畑作などを拡大する予定はないにも拘わらず、土地を買ったのは何故なのか・・・?

話はちょっとそれるが・・・
英国ではジプシーと言う移動民族がいる。歴史的には17世紀の頃のアイルランドのじゃがいも飢饉を発端に、英国本土へやって来たティンカーズ(Tinkers)といういわゆる行商人や流浪民族を指しているが、加えて東方からのロマ人も含まれるようになり、これらの移動民族を総称してジプシー、または最近はトラベラーズと呼ばれている。不思議なことに英国ではジプシーという言葉は差別用語になっていない。

昔はジプシーは下の写真のような個性的なワゴン(馬車)に乗って、移動を続けてきた。
しかし近年というか、今の世代のジプシーは昔ほど移動はせず、キャンピングカー、キャラバン、移動用住宅などを利用して田舎の農地に集団でキャラバンのコミュニティーを形成している。

このジプシー・キャラバンのコミュニティは居住許可、土地利用許可を得ていないことも多く、土地を購入しても建設許可を得ていない、いわゆる不法建築や不法占拠の集団になっているので、近隣の地域住民とのいざこざが絶えない。貧困層が多いので環境的に衛生的でない、騒ぐ、犯罪が増える、などの社会的な問題、そして彼らは納税していないというのが理由らしい。
最近ではジプシーや移動民族のコミュニティが地方政府から強制立ち退き退去を迫られていて、エセックス州のDale Farmというアイルランド系が住むジプシー・コミュニティは数年前に大きなニュースになっていた。この人たちはもう何世代にもわたって移動を続けて来て、昔は子どもは学校に行けない、病気になっても病院にもかかれない、というのは当たり前だった。近年はこうして安住の地をみつけて、それなりの社会福祉サービスを受けられるようになった。しかし強制退去されたら住むところがまったくなくなり、また移動する生活が始まる。
ということで、これは民族浄化だ、と地元政府は批判されている。

閑話休題
マービンがお隣のおばあちゃんの土地を買い上げた理由。
安い農地が売りに出されると、ジプシーなどの移動民族が集団で土地を買う、もしくは地元政府が土地を買い上げてキャラバンコミュニティに土地を貸す可能性がある。そうなると環境破壊だけでなく、土地の価格が暴落する。
こういう理由でマービンは自分の資産を守るために、お隣の広大な土地を買わざるを得なかったようだ。

あまり知られていない英国のジプシーの問題。
以前書いた、最近の他民族間の摩擦とはまた違い、歴史的に根の深い問題である。

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