2011年3月31日木曜日

サバイバーズ・ギルト

サバイバーズ・ギルト(Survivor's Guilt:生存者の罪悪感)という言葉がある。
災害に遭遇し、助かった人たちが感じる罪悪感を意味する。

「助かったことが申し訳ない気がする」
「こんなおいしい物を食べたりするのはいけないことと思う」
「旅行とか娯楽とかを楽しんでは罰があたる」
「自分だけこんな楽な生活をしていていいのか」
などなど・・・

知人の精神科医から、最近外来でサバイバーズ・ギルトを訴える患者が増えている、と聞いた。
病院に通わなくてもこのような気持ちを持っている人は大勢いると思う。
皆さん、何が起こるからわからないので毎日ずっとテレビの前に座っており、映像を見ることでトラウマ化しているそうだ。こういう場合はテレビから離れて、ラジオを聴くとか、携帯のニュースサイトで号外速報設定をするといいらしい。

海外に住んでいる多くの日本人も同様に、サバイバーズ・ギルトを感じていると思う。私もその一人。
「海外にいて何の影響も受けず苦労もしてない自分がいる」「スーパーに行って、こんなに物が普通に買えていいのか?」などと自問自答する。
こういうのは「エクスパット・ギルト(Expat Guilt:海外居住者の罪悪感) 」とか言うのかなぁ?
日本にいない分、実情がわからず不安が増幅する、なので、NHK worldやBBC、CNN、ネットのニュースやブログ、Youtubeなどを頻繁に見てしまい、映像や最悪の情報が頭から離れず、日本が沈没しちゃうのかしら、と思い、益々心配になり物事に集中できなくなったり、眠れなくなる。私も含めてそんな日本人の友人が回りに結構いた。

少し、情報から離れないと精神的な安定が得られないのかもしれない。

2011年3月29日火曜日

シェルター・ボックス

英国にShelterBox (シェルターボックス)というNGOがある。
東北に地震津波が発生した直後、BBCで彼らの支援開始の模様が放送されていた。団体は大きな倉庫をもち、スタッフが忙しそうに物品を箱詰めしていた。何度かに分けて数千箱単位を軍用機でロンドンからシンガポール経由で東北に空輸するということだった。

シェルターボックスとは災害によって家を失った人たちへ緊急に供与する箱。
中身が何かというと、テント、浄水キット、防寒用具、工具、調理器具(鍋、まき用コンロ、皿)、子どものお絵かきセットなどが緑の大きな箱に詰められている。箱はベンチ代わりになる。1箱で5-6人くらいが共有できるそうだ。

最近、岩手県の大船渡に到着したようで、その映像が紹介されている。驚いたのがテントが結構大きいこと。家を流された人たちは当初、外にテントを張っていたが、今は避難所の中に設営している。確かにプライバシーを保つにはグッドアイデアである。ただし、込み合っている避難所では難しいだろうが・・・
災害直後は食事や医療が必要だが、こういう気の利いた代物も長い避難生活には必要だ。

海外のNGOからこのような支援を受けていることはあまりニュースになっていない。今日の朝日新聞の報道では、すでに24カ国からの支援が届けられたと外務省が報告したそうだが、これはほとんど相手国政府からの支援。その他に大小のNGOからの支援もたくさん入っている。そういうのもちゃんと報道してよ、と言いたい。

ちなみに今年は、日本は人道支援の受け取り国になり、その額は世界でスーダンに次いで第二位らしい。援助を勉強している身として、世界は助け合って生きているんだというのを身に染みて感じる。

2011年3月26日土曜日

前線の闘士

今回の震災では多くの人々の救援が報道されている。

がれきの中から人々を助けるレシュキューチームは消防や自衛隊の他、海外からの緊急援助隊(緊援隊)。色々な国から救済に来てくれている。
先進国だけでなく今まで日本が救援をしてきた途上国の緊援隊も参加してくれている。
一体、彼らはどんな人たちなのか・・・?

昔、インド洋スマトラ沖の津波関連の仕事をしたときに学んだ。
国際緊急援助隊は各国が有するプロの災害救援チーム。建物から人を救助するレスキューチームと、けがや病気になっている人を治療する医療チームから構成されている。
日本の緊援隊は事務局が国際協力機構(JICA)にあり、隊員は警察、消防、海上保安庁の職員で構成されている。彼らは日常の任務を行うかたわら、非常時になると緊援隊として海外に出動する。そのために災害救済に関する国際的な訓練を受けている。
それを提供しているのが、INSARAG (国際探索・救助助言グループ)。国連によって1991年に設立され、およそ80カ国がメンバーになっている。各国政府やNGOなどの災害探索・救助組織が被災地で効果的に活動できるように様々なルールを作り、救助法のトレーニングを提供し、そして定期的な意見交換を行っている。医療チームは国際赤十字委員会(ICRC)や国際NGOが策定に関与した災害援助に関する最低基準をまとめたスフィア(Sphere)プロジェクトに沿って訓練を受けている。

例えば、日本の緊援隊は以下のような訓練を受けている。

レスキューチーム
1.警察、消防、海上保安庁の隊員100名程度に国内訓練を実施
2.INSARAG海外(地域)セッション 5名参加
3.INSARAGリーダー訓練(ジュネーブ) 2-3名参加
4.INSARAG海外USAR(都市探索・救助)訓練 専門家2名参加

医療チーム
医師、看護師を対象にSphereマニュアルに沿った訓練
1.初級コース(3日間 20時間)
2.中級コース(1日 8時間)

ということになっている。
日本に来て、がれきの山をかき分けて救助している各国の緊援隊の人たちも国際的な基準に沿って知識や訓練を取得し、援助に従事しているのだ。

一方、同じようにこの災害と闘っているのが、原発の冷却システムに関わっている人たち。東電はまさかこんなことが起こるとは考えていなかったので、最悪の事態を想定した復旧訓練やシュミレーションなどしてなかっただろう。

海外では「英雄なる福島の50人」として報道されていが、本当はもっと大勢の人が関わっていると知った。Mon mari は真剣な顔をして「彼らはカミカゼなのか?」と聞いてきた。私は言葉に詰まり答えることができなかった。本当はどんなに危険手当を積まれてもやりたくない仕事だろう。死を覚悟した作業を知るにつれ、身につまされる思いである。

2011年3月20日日曜日

嘆きの涙

ついにリビアに対する連合軍の空爆が始まった。
BBCやCNNはそのニュースで独占されている。
とても重要な事件というのはわかっているが、でも私の心はまだまだ日本だけにある。

BBCが掲載した被災地の写真を見ると、私たちがどうやってこの人たちの悲しみを救ってあげられるのか、途方に暮れてしまう。
私は海外にいて何もできない。

できることは募金に寄付・・・ 
でも赤十字だけはやめておく。あそこは黙っていてもセレブなんかが中心になって膨大なお金が集まる所。インド洋・スマトラ島沖地震津波のときに、巨額な資金が集まり過ぎて、短期にお金を使いきれないNGOが多くあったのを学んだ。援助の集中砲火というやつ。

大胆なスタンドプレーをしなくても、もっと中小規模で隙間に入って地道に、中・長期的に支援しているNPOに募金をすることに決めた。

被災者の嘆きの涙は決して乾くことはないだろう。
当面はこのGrief Process を共有することしかできない。

2011年3月18日金曜日

世界が緊張だらけ

たった今、テレビで、国連の安全保障理事会がリビア政府に対して「No Fly Zone (飛行禁止区域)」と「All Necessary Measures (あらゆる必要手段の行使)」を採択したのを観た。賛成10票、反対0、棄権5票、中国、ロシア、ドイツ、インド、ブラジルが棄権に回った。
これで英仏が中心になり、いよいよ諸外国がカダフィに対して軍事行動を開始する。
場合によってはカダフィも空爆などで殺されることもあるらしい。
民主化運動が国際戦争になってしまった・・・。

極東では地震・津波、原子力の放射能漏れが大問題になる一方、北アフリカでは戦争が始まろうとしている・・・

世界の緊張がどんどん高まっている。
今年はこういう年なのだろうか・・・

2011年3月17日木曜日

冗談でしょ?

この2-3日は悲しくて落ち込むブログが続いたので、今日はちょっとお笑いを誘う話。

中国のとある会社。
ウィリアム王子とケイトさんの結婚を記念した、「正真正銘のボーン・チャイナ」のマグカップをオンラインで英国を中心に9.99ポンドで売り出した。
悪くない価格、可愛いカップ・・・と思いきや、よく見るとウィリアム王子の顔は何と、弟のハリー王子になっている!
これって冗談か、本気でやったいたずらか、それとも単なる印刷ミス?

販売しているのはGuandong Enterprises という実在の会社。ホームページまである。
英国のニュースで話題になったので、さすがに恥ずかしくてホームページを修正するのかと思いきや、まだハリー王子のまま。
結婚行進曲が流れる動画まである。

さすが大胆な中国。多分、肖像権とかも得ていないだろうな・・・
英国王室から苦情が来たらどうするのだろう?
でももしこれがジョークなら、確実に英国人を上回るブラックジョークと言える。
ちなみに私も一つ買ってみようかしら?、なんて。

2011年3月15日火曜日

人災か?


フランスは電力の75%を原子力に依存している国家である。その理由からなのかよくわからないが、フランスの電気料金は諸外国に比べて安い。我が家 は2LDK (75平米)で、2ヶ月置きごとに来る請求が80-90ユーロ、つまり2ヶ月で1万円程、1ヶ月で5千円。日本の半分程度である。なので、こちらでは皆電気を平気でつけっぱなしにしている。英国に住んだときはあまりの電気の高さに驚き、節電の習慣がついた。英国人は夜中12時過ぎから早朝まで、そして日中はセントラルヒー ティングを必ず切るが、フランスではそういうことはしない(温度があがって暑くなれば別だが)。ちなみに英国の原子力依存度は15%程度。日本が25%程度な ので、そういう事情も電気料金と関係があるのだろうか?

福島原発が大変なことになっている。
津波で原子炉が壊れる・・・とはいえ、津波のない国や地域でも、「水に浸る」大洪水はあるのだから、同様の危険は将来想定する必要はある。

原発は地震でおこる揺れに関しては対策を講じて設計されていただろうが、まさか津波で機能不全に陥るという前例はなかったので、全く想定していなかった・・・というのが大体の憶測。

しかしそれを覆すような記事が知人から送られてきた。今回の事故は天災でなく実は人災であったと思わせるようなその内容は、2007年7月、共産党福島県委員会が東電に送った申し入れの中で明らかにされている。特に第4項には以下のように記載されている。

  4. 福島原発はチリ級津波が発生した際には機器冷却海水の取水が出来
    なくなることが、すでに明らかになっている。これは原子炉が停止されて
    も炉心に蓄積された核分裂生成物質による崩壊熱を除去する必要が
    あり、この機器冷却系が働かなければ、最悪の場合、冷却材喪失によ
    る苛酷事故に至る危険がある。そのため私たちは、その対策を講じる
    ように求めてきたが、東電はこれを拒否してきた。
     柏崎刈羽原発での深刻な事態から真摯に教訓を引き出し、津波に
    よる引き潮時の冷却水取水問題に抜本的対策をとるよう強く求める。

うーん、引き潮云々というのはちょっと状況が違うが、でも海水を取り込めない、冷やせないという問題が津波で起こることを指摘されていたのは事実である。つまり東電は津波と冷却機能の関連を認識していたがこれを無視し、何の対処も講じなかったということ。これが事実としたら東電は重大な過失を犯したとして刑事告訴されてもおかしくない。

原子炉1機は3000億円、4機つぶれて1兆2000億円。国民の払う代償はお金だけでなく、これ以外の健康被害、生産被害、生活被害など多くが含まれる。

原子力が二酸化炭素を排出しない「クリーンエネルギー」として日本や米国、欧州などで推進されてきているが、この事故により原発の功罪をきちんと見極めて国民議論をした上で政策転換をすることは絶対に必要である。

2011年3月14日月曜日

心が痛い

心が痛い。
海外に住んでいて、こんなに自分の国のことを思うことは過去になかった。
日本が頭から離れず他のことに集中できない。同様に海外にいる友人たちも皆、同じ想いのようだ。

金曜の朝8時前にMon mari がベッドにやってきて、「日本が地震で大変なことになっているよ・・・」と教えてくれた。それから眠い目をこすってテレビの画面をみたら呆然自失。
自分のことのように気が変になりそうだった。

その日、友人とランチに出ても何をしても楽しめない。あの被災した人たちのことを考えると食事もろくに喉に通らなかった。

東京の家族は無事だったのを知り安心したが、多くの人々が生活の不自由を強いられているのを知ると忍びない。

被災者の方たち、親族や友人たちを亡くされた方たち、そして福島原発で避難している方々には心からお見舞いを申し上げるとともに、この困難を少しでも早く乗り切れるよう、日々神様にお祈りをしております。

人生の中で苦境にあったときに私がいつも読み直す聖書の一節をメッセージとして東北の皆さまたちにお送りしたいと思います。

     主が言われた、「わたしの恵はあなたに対して十分である。
     わたしの力は弱いところに完全にあらわれる」。
     それだから、キリストの力がわたしに宿るように、むしろ喜んで
     自分の弱さを誇ろう.....なぜならわたしが弱い時にこそ、
     わたしは強いからである。(コリント人への第二の手紙12章9-10)

                 神のいやしを皆様へ             
                               在主     猫姫

 

2011年3月7日月曜日

意味不明な日本文化

自宅の近所にある窓やドアを作って売る、いわゆる「建具屋」のショーウィンドウ。初めて目にした広告。

なんじゃ、これ?
3月7日から19日まで特別ご奉仕ということの宣伝なのだが、何故、お相撲さんがここに飾られているのか?特別な条件でのご奉仕、という言葉と、特別な体型とつなげたひっかけか?
こういう意味不明な日本文化の広告はやめてほしい。見ていて、結構不快。

フランスでも日本文化はすごい人気がある。
一昔前だと「Sony, Toyota」などが日本を代表するものだったが昨今は違う。
フランスで言うと、漫画、すし、コスプレ(一部だけど)などが日本の代名詞になっている。
自宅近くにも日本の漫画を専門に売る店がある。でもすし屋の急増はほとんど中国人のお陰と言っても過言でない。中国人が日本食を世界に普及してくれている。

ちょっと前に電車の中で遭ったデトロイト出身のアメリカ人と話したら、今、アメリカのティーンエージャーの間で日本語がすごいブームだとか。80年代の時はビジネスチャンスのための語学習得がほとんどだったが、今は日本の漫画を読んで理解できるために、多くの若者が日本語を学んでいるとか。

フランスでは今、Japan Expoが開催されていて、日本の現代文化やブームが集約されていてすごい人気だそうだ。少なくとも、着物とか文学とか芸術における文化展示ではないようだ。
今週末にでもちらっとでかけてみようかな。

2011年3月1日火曜日

国際機関の存在意義

今日はちょっと真面目なお話。
世界的な景気低迷の影響を受け、英国も財政難に直面し連立保守政権は非難轟々の下、厳しい査定をして当然ながら開発援助予算も大幅に削減した。
その一環として、国連のILO(国連労働機関)とUNIDO (国連工業開発機関)、UNHABITAT (国連人間居住計画)、ISDR (国際防災戦略)のメンバーから撤退することになったそうだ。パリにあるUNESCO(国連教育科学文化機関)も撤退の対象になるかと思っていたが、今回は難を免れたそうだ。しかし2年の猶予を与え、その間にマネージメントに改善が見られない場合は撤退も視野に入れると警告を出したらしい。
そうだろうな、UNESCOのムダ遣いには目を見張るものがある。こんな物や活動に自分たちの税金が投入しているとわかったら、どこの国民も撤退を要求してもおかしくない。

英国が撤退する理由は単なる予算削減というより、国際機関の組織的な問題に起因するらしい。
最近出た、英国政府の多国間援助のレビュー報告書 (Multilateral Aid Review)はかなり包括的で詳細な評価をしている。組織の効率性や効果、拠出した金額に見合った活動をしているか (Value for Money) を厳しくチェックしている。まあ、英国1国が抜けても組織運営そのものに大きな影響はないだろうが、米国など多額に拠出している国も右にならえとばかり、見直して撤退するドナーも出てきたら大変だ。

で、報告書では上の図のような分析結果が発表された。
組織の強さと英国政府の目的への貢献、という二つの変数でValue for Moneyを測ると、確かにUNESCO、ILO、UNIDOは極めて低い位置にあり、Poor (お粗末)という分類に入っている。高い機関はGAVI(ワクチンなどを普及する機関)、ICRC(国際赤十字委員会)などである。二つとも国連ではないことと、援助活動が見えやすい、わかりやすい、即効性があるという面で共通している。

先日、UNICEFに勤める友人と話し時、彼女は「最近、国連の役割ってなんなのかと思う」とポツッと言ったのが印象的であった。中にいる人もそんな風に感じているのなら、外側の人ももっとそう感じるのかもしれない。

英国の評価は英国独自の基準で計測しているので、他のドナーにも共通するわけではない。しかしここから学べる点は、日本政府のように「まず拠出すること先にありき」という前提にたっていないことである。つまり、彼ら自身の基準に基づいて客観的に評価し、拠出の増減だけでなく存続の有無も含めて納税者に説明しようとしている。
一方、日本政府はこのような詳細分析ををして国際機関への拠出を決めているわけでない。単に前年度ベースに基づく基準か、政治的な理由(国連の安保理事会の常任理事になりたいとか)などファジーな部分だけで決められている。それと日本人というのは「情報」が入らないことに過度な不安をもつことから、メンバーから抜けることで国際社会から疎外されると思っているのかもしれない。

でも日本も相当な財政難なのだから、ODAを有効活用するのなら、英国のようにValue for Money的な感覚に沿って、国際機関への支援の大胆な見直しをする時期が来ていると思う。