2009年8月21日金曜日

熟考:女性の健康

今回のオージー訪問中、メルボルン大学で「女性とエイジン グ(加齢)」をテーマとした1週間の集中講座を受けた。将来の自分の問題でもあるので前から受講したいと思っていた。昨今、アンチ・エイジング(抗加齢)が華々 しく注目されてるが、老いを悲観したり否定する「抗」ではなく、いかに老いを自然に受け入れウェル・エイジング(良い加齢)を目指すかを焦点にした講義だった。洋の東西を問わず、老人差別主義や高齢者への否定的な固定観念が社会に深く浸透している中、若い頃から老いに関して否定的、差別的なイメージや態度を持っている人が老いると、辛く不健康な老後を送る傾向が高くなる一方、日頃から老いを肯定的に、前向きに受け止めている人は比較的健康で幸福に老いを迎えるという研究結果が紹介された。心に染みるいいメッセージだった。

講師はマギー・カークマン先生。今回はエイジングを教えてくださったが、ご専門はリプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)。実はこの先生、オーストラリアで一番最初に代理母から子どもを授かった女性である。先生ご夫妻とも不妊症で、マギー先生が40歳の時に彼女の実の妹さんが代理母となって長女を産んだ。精子はご夫妻の知人からの提供、卵子はマギー先生自身から採取、だけど子宮は妹さんから借りる、という複雑な背景があった。当時は1988年、まだ生殖補助医療(ART)や代理出産などへの理解も浅く、差別や偏見があった時代で、当然マギー先生は社会から痛烈に非難された。しかし彼女は逃げも隠れもせず社会と闘い、ARTや代理出産のあるべき姿を市民や政策立案者と徹底的に議論し、議会やメディアにも頻繁に登場し適正な対策を訴えてきた。彼女の活動貢献の結果、最近やっと国が代理出産に関する法律を制定した。オーストラリアでは、金銭の授受が発生する代理出産ビジネスを禁止し、代理母になれる人は近親者のみに限定しているそうだ。

マギー先生のお嬢さんは今年21歳、講義の最後の日に先生とお嬢さんと一緒に食事をしたが、自分の出生の事実を早い時期から教えられ育ったので、世間から注目を浴びても成長過程での混乱はなかったそうで、両親や叔母(出産した妹)とも良好な関係を築いているとのことだった。

日本も代理出産が数件報道されており、担当した産婦人科医が非難されているようだが、今回同じコースを受講した日本人の医師や看護師らによると、日本では報道されているよりもっと多くの代理出産が潜在的に行なわれているとのことだった。例えば、代理母が偽名(代理を依頼する母の名)を使い、偽名のカルテや出産証明書を使い出産しているという可能性があるらしい。話を聞いて恐ろしくなった。もしそれが本当なら、もう代理出産の倫理的是非を議論する段階でなく、存在する現実として認識し、日本もきちんと法整備をして不正な代理出産が水面下で横行しないような対策を取ることが先決と強く感じた。

写真左がマギー先生、修了証を手にしている私の右はアドミン担当のアイナさん。

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