英国の各主要紙で高い書評を得ていたので早速アマゾンで買って、吸い込まれるように読んでいる。
著者のLinda Polmanはオランダのジャーナリスト。特に、緊急支援、人道支援に集中して取材を続けている。シエラレオネ、コンゴ民主共和国、ルワンダから、イラク、アフガニスタンにまでわたって、人道支援の問題点を鋭く描いている。
一言で要約すると、人道援助という名のもとで、援助のお金が紛争の原因である独裁者の繁栄を守り、助長していると彼女は主張している。これは単なる上層部の汚職や不正とは異なり、ある意味、「不必要善(行った善よりもより大きな悪を生み出す)」のスパイラル、という感覚かもしれない。
たとえば・・・
ユニセフは子どものワクチンを接種するために、ある国で反政府リーダーに税金を納めて、独裁者や暴君の懐を潤わせているという(納めなければ活動できないというジレンマが横たわる)。
90年代半ばに起こったルワンダ虐殺の後に大量発生した難民。コンゴ民主共和国に流れた難民は犠牲になったツチ族だけでなく、その多くは虐殺を企てたフツ族のリーダー、反政府ゲリラ、過激派だった。有名なゴマキャンプで発生したコレラの流行では5万人もの難民が死亡したと報道されて、世界中から相当の義援金が集まり、支援ドナーは一日100万ドル(1億円)あまりを消費しなければならないほどに至った。しかし実際には、コレラで死亡したと言われた中にフツ族リーダーに反抗して虐殺された者も多数おり、真実が報道されなかったとPolmanは主張している。また難民と言ってもフツ族難民はルワンダを脱出した時に大量の物資や家畜を持って来て、さらにキャンプから抜け出してルワンダに戻り、物資を再供給して、キャンプで豊かになっている者も大勢いたそうだ。
要はこのような実態が正確に報道されずに「虐殺で発生した難民がコレラで大量死」という一言でくくられアピールされると、視聴者の同情心を掻き立て、多額の援助金が集まり、多くのドナーが支援に入る「ドナー・ダーリン」現象を生み、結果的にキャンプの独裁者たちの利益につながったといるとしている。
シオラレオネでは10年前に起こった内戦で多くの市民が負傷し、手足を失った。ところが、特に子どもの手足の切断が多く、それは反体制派によって意図的に引き起こされたとしている。そのような多くの子どもたちは、ドナーが供与した義足や義肢が山積みになっている小屋に、戦争ゲリラによって閉じ込められているそうだ。ゲリラのリーダーは「この手足がなくなった子どもたちがいなければ、あんたたちドナーは俺たちのところに来ないだろう!」とPolmanに語ったそうだ。つまり、紛争を起こし犠牲者を出すことでドナーを呼び入れて、その援助のお金を自分たちに還流するような仕組みにしているとしている。
アフガニスタンでも、世界銀行は援助のお金の35-40%は不正流用され、結果的にタリバンの懐に入ってると認めている。
人道援助が独裁者や反逆者の利益につながって、さらなる紛争や災害を起こしていくのなら、援助はきわめて危険な道具にもなりえるということになるのだろう。極論の話とも捉えられるかもしれないが、問題提起としては価値のある視点だと思う。
まだ本書を完読していないが、ルポルタージュ調でとても読みやすく書かれているので、援助に関わっていてご興味のある方にはお薦めの一冊である。